もし炭治郎が、日の呼吸の適性が最適最強だったら その2

その1は、下記です。

shiryuブログ

ラノベ作家のshiryuです。鬼滅の刃のSSを書きました。タイトル通り、炭治郎が最初から日の呼吸を使えていたら、というS…

 

 

 


 

 

 

『炭治郎……』

 

夢を見ていた。

 

死んだはずの父さんが、真っ暗な空間の中にぽつんと立っている。

 

いや、よく見れば、足元があたたかな炎で揺らめている。

 

『すまない、お前には……茨の道を、進ませてしまう』

 

とても悲しそうな、後悔しているような匂いがした。

 

『置き去りにしてすまない、炭治郎――家族を、みんなを頼む』

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

急激に、意識が覚醒し始めた。

重たい瞼を開け、パチパチと二度瞬きをする。

 

炭治郎には見慣れた天井だ。

 

いつもの、暮らしている家の天井。

そしていつもの布団の匂い。

 

深い眠りについていたようだ。

 

いつもなら家族の中で一番早く起きる炭治郎だが、今日は周りに誰も寝ていない。

結構寝坊をしてしまったようだ。

 

上体を起こし、布団から出る。

 

窓の外を見ると、もう日が昇っている時間のようだ。

 

炭治郎は起き上がって、少し硬くなった身体を伸ばすために背伸びをする。

 

「……お兄ちゃん?」

「んっ……禰豆子」

 

家の戸の方を見ると、禰豆子が炭治郎を見て驚き固まっていた。

 

どうした、と炭治郎が聞く前に、禰豆子は泣きそうになりながら駆け寄って抱きついてきた。

 

「お兄ちゃん……! 起きてよかった! 大丈夫? 身体、痛いところない?」

「ああ、大丈夫だが……どうしたんだ?」

 

なんだかわからないが、安心させるように頭を撫でながら炭治郎は聞いた。

 

「お兄ちゃん、丸二日も寝てたのよ!」

「えっ!? そうなのか!?」

 

まさか自分がそんなに寝坊をしていたとは思わなかった。

 

「時々寝ているときに苦しそうにうなされたり、体温もすごい高かったから……お医者さんを呼ぼうってなったんだけど、雪も降ってるから山を降りるのは難しくて……」

「そうだったのか……心配かけて、悪かったな」

 

禰豆子の背中まで手を回して、抱きしめながら頭を撫でる。

 

「ううん、無事に起きたなら大丈夫。今は本当に辛くない?」

「ああ、むしろ調子がいいくらいだ」

 

炭治郎の胸元から顔を見上げた禰豆子が、何かに気づいた。

 

「あれ、お兄ちゃん。そんなに歯尖ってた?」

「ん? 歯?」

 

炭治郎は触って確かめてみると、確かに上と下の犬歯が鋭くなっていた。

さすがにこんな鋭くはなかったはずだ。

 

「なんだろうな、わからないけど……あとで削っておくか?」

「歯を削るのって、なんか怖い……いいんじゃない、そのままで」

「そうか? まあそうかもな」

 

よくわからないが、歯のことはそのまま何もしないことに。

 

そして二人は、外へと出て家族に炭治郎が起きたことを知らせた。

 

その後、炭治郎が起きたと家族みんなが知って、みんな泣いて喜んだのは言うまでもない――。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

炭治郎が眠りから覚めた、その日の夜の明け方。

 

いつも通り、炭治郎はみんなよりも早く起きて、木を切っていた。

今日は雪も降っておらず、まだ暗いがそろそろ日が出る頃だろう。

 

「お兄ちゃん、おはよう」

「禰豆子、おはよう。今日は早いな」

「お兄ちゃんこそ。病み上がりなのに、そんな早く起きなくてもいいんだよ」

「大丈夫。病気にかかってたって感じじゃないし」

 

炭治郎はそのまま木を切って、禰豆子はその辺で薪になる細い枝などを拾って回る。

 

すると……炭治郎が、あることに気づく。

 

「……禰豆子、また誰かがこっちまで来てる」

「えっ……もしかして、前の人……?」

「いや、匂いが違う。だけど普通の人じゃない、すごい速さだ」

 

炭治郎の本気の速度と並ぶぐらいの速度で、炭治郎と禰豆子の元に来ている。

 

「禰豆子、家に……」

 

入れ、という前に、禰豆子が必死に叫ぶ。

 

「嫌よ! お兄ちゃんが前に一人で怖い人と戦って、それで二日間も眠ったままだったから! 絶対に一人にしない!」
「禰豆子……」

 

禰豆子は炭治郎が眠っていた二日間、そのことでずっと後悔していた。

 

実際、あの時禰豆子が外に出ていたら、禰豆子は死んでいた可能性が高い。

しかしそれでも、大事な家族である炭治郎が一人で戦って、一人で苦しんでいるのが辛かった。

 

眠っていたのは二日だけだったが、とても長い二日に感じた。

もうこのまま目覚めず、死んでしまったらという嫌な想像を何度もした。

 

だから、そんな後悔をまたしたくない。

絶対に炭治郎を一人にするわけにはいかない。

「……わかった。禰豆子、俺の後ろにいろ」
「っ! うん、ありがとう」

 

炭治郎はその人が来るであろう方向を真正面に捉え、禰豆子は炭治郎の背中側に回った。

 

そして数秒後、その人物が来た。

 

上から落ちてくるように目の前に着地した。

雪が積もっているのにもかかわらず、とても静かな着地だった。

 

まるで流れに逆らわない、水のような。

 

 

その人物――冨岡義勇は、目の前の二人に戸惑っていた。

 

お館様のご命令で、義勇はこの山の中を調査していた。

 

なんでもお館様の勘が、この山には何かがあると囁いていたようだ。

 

『鬼舞辻無惨を倒すために必要な、何かが……あると思うんだ。柱の君達に、任せたよ』

 

そう言われてここに来たのだが……今目の前にいる相手は、おそらく――鬼だ。

 

階級が柱である義勇でさえ、ここまで近づいてようやく鬼とわかるぐらい、鬼の気配が薄い。

 

普通の鬼ならば見た目でもわかるものだが、この鬼は見た目は完全に普通の人間だ。

鬼っぽいところを挙げるとするのであれば、瞳孔が少し縦になっていて、犬歯が人よりも鋭いだけ。

 

鬼殺隊の一般隊士だったら、鬼だと気づかないだろう。

 

「……鬼、その娘から離れろ」

 

ただ、鬼は鬼。

 

見ると後ろにはどこからか攫ったのか、綺麗な娘がいる。

まだどこも怪我をしていないようだ。

 

なぜこんな山奥に鬼が人間を喰らわずにいるのかわからないが、人質に捕らえられているのであれば不利である。

 

「……鬼、ってなんですか? 俺のことですか?」

 

鬼の男は本当にわからなそうにそう言った。

 

自分が鬼になったことが、わからないのか?

 

「……他の鬼に会わなかったか? 傷口にその鬼の血を浴びたら、人喰い鬼になる」

「っ! まさか、あの時……!」

 

やはり身に覚えがあるようだ。

 

「そして俺は……人喰い鬼を、殺さなければならない」

「っ!」

 

義勇が日輪刀を抜いて構えると、鬼も持っていた斧を構える。

 

「っ! お前、呼吸を……!」

 

鬼が構えた瞬間、空気が変わったのがわかった。

 

いや、義勇が気づかなかっただけだ。

 

鬼は、今までずっと全集中の常中をしていた。

 

鬼が呼吸を使うなど……見たことがなかった。

 

もともと鬼殺隊なのか?

いや、そんな風には見えない。

 

ならば鬼殺隊ではないのに、自己流で呼吸法を知り、全集中の常中までこなしているのか。

(こいつは、ここで殺さないといけない)

 

ただでさえ人間よりも身体能力が高い鬼が、鬼と戦うために人間が開発した呼吸法を使っている。

柱以外の階級では、太刀打ち出来ないだろう。

 

義勇はそう思い、戦おうとしたが――。

 

「――待って!!」

 

鬼の後ろにいた娘が、鬼の前に守るように出てきた。

 

「禰豆子!!」

「お兄ちゃんは、人喰い鬼なんかじゃない! だから殺さないで!」

「……なに? 兄だと?」

 

鬼が攫った娘だと思っていたが、まさかの血縁だった。

 

「禰豆子! 危ないから後ろに下がってろ!」

「だって! そうしないとお兄ちゃんが殺されちゃう!」

 

禰豆子は、兄の炭治郎が並外れて強いことを知らない。

 

兄が人よりも運動神経が優れていることはわかっているが、まず比べる相手もあまりいなかった。

だからどれくらい優れているのか、客観的にはわからない。

 

そして戦った姿も見たことがないので、目の前の刀を持っていて、どう見ても強そうな人と戦ったら、殺されると考えていた。

 

実際、義勇の見立てからすると炭治郎の戦闘力は、自分一人じゃ勝てない。

一緒に来ている柱の者と共闘して五分五分に持っていけるか、ぐらいだったが。

 

「お兄ちゃんは人を殺さない! お兄ちゃんが鬼になってたとしても! そんなの関係ない! 私の家族は殺させない!」

「……っ!」

 

確かに義勇は、目の前の鬼が人を殺していると判断出来なかった。

 

今まで斬ってきた鬼達は、全員が人を騙し、人を殺し、人を喰らって生きていた。

 

目が腐っていて、性根も腐っているような鬼ばかり。

 

しかし、今目の前にいる鬼は――。

 

いきなり目の前に立ち塞がった妹を後ろに下がらせようとする、優しい思いやり。

 

そして義勇が妹を襲おうとしないか、油断なくこちらにも注意を払っているのがわかる。

 

(この鬼は……何か、違うのかもしれない)

 

そう思った瞬間、お館様の言葉を思い出した。

 

『鬼舞辻無惨を倒すために必要な、何かが……あると思うんだ』

 

もしかしたらこいつが、鬼舞辻無惨を倒す――鬼殺隊の長年の敵を、倒しうる何かに値するのかもしれない。

 

義勇は日輪刀を鞘に納めた。

 

兄の鬼の方は驚き、妹の方は安心したように笑みを浮かべた。

 

「何があったか、話せ。斬らないか決めるのは、それからだ」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

水柱、冨岡義勇。

 

その者と同じ任務にあたっていた、鬼殺隊の柱の一人。

 

「うーん、こちらには何もないみたいね」

 

女性にして、鬼殺隊の柱まで至った者。

 

「冨岡くんは、まだ集合場所には来ていないみたいですね……」

 

山の西の方を、その女性が。

反対の東を、冨岡義勇が見て回ることになっていた。

 

「何かあったのかしら?」

 

その女性は雪の山を駆ける。

 

その女性が着ている羽織りは、美しい蝶の羽を模した柄になっていた――。

 

 

 


 

次の話はこちらです。

shiryuブログ

ラノベ作家のshiryuです。鬼滅の刃のSSを書きました。タイトル通り、炭治郎が最初から日の呼吸をすごくうまく使えていた…

 

 

鬼滅の刃など、いろんなアニメや、ドラマや映画をお得に見たい人は、

下記の記事をご覧ください。

shiryuブログ

動画配信(VOD)サービスを、徹底比較しています。U-NEXT、Hulu、dTV、dアニメストア、Amazonプライム・…

 

有名で人気な動画配信サービスを5つ、まとめています。

どのサービスも登録してから2週間、1ヶ月は無料で利用できます。

その間に「合わないなぁ」と思えば、もちろん解約出来て、料金はかかりません。

お得に見れる情報も満載なので、ぜひご覧ください。

 

 

最新情報をチェックしよう!