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ライトノベル作家のshiryuです。鬼滅の刃のSSを書きました。炭治郎がもしも最初から最強だったら、というものです。鬼化…
「こんにちは、日柱の竈門炭治郎です」
俺は、初めて先生以外の柱を見た。
いや、先生は元柱だから、現役の柱は初めて見た。
柱と名乗る者の後ろには、同じ顔同じ髪型の男が二人。
おそらく継子だろう。
俺達の方は、先生が一歩前に出て、先生の後ろに俺とカスがいる。
先生と日柱が軽く雑談をしていて、俺は日柱を観察していた。
予想していた通り……いや、予想以上に、弱そうだった。
年老いて柱を辞めた先生よりも、覇気がない。
そこらの力自慢の大人の方がまだ強そうな雰囲気がある。
柱になったばかりと聞いたが、こんな弱そうな奴が……。
人当たりの良さそうな笑みを浮かべているが、虫すら潰せなさそうな顔をしている。
しかもどう見ても、俺より年下だ。
最年少で柱になったと聞いたが、何歳なのだろうか。
カスと同い年くらいか?
こんな奴が、鬼殺隊で最強の地位である柱?
馬鹿馬鹿しいにもほどが……!
「ねぇ、お前さ……炭治郎さんのこと、馬鹿にしたでしょ?」
「――っ!?」
気づいたら、俺の首元に刃があった。
木刀ではない、日輪刀だ。
日柱の継子の一人が、目にも留まらぬ速さで距離を詰めて刀を抜いていた。
少しでも俺が動くか、あちらが刀を動かせば、斬られる――。
本気でそう思った。
「無一郎、やめろ」
「だって兄さん、こいつ」
「日輪刀だと危ねえだろ。あとで木刀でボコボコにしてやれるんだから、それまで我慢してろ」
「……はーい」
もう一人、同じ顔をした奴のお陰で、命拾いをした。
一瞬しか殺気を向けられなかったが、絶対に勝てないということがわかってしまった。
こいつらも俺よりも年下なはずなのに……なぜ……!
「すいません、桑島さん! 二人がご無礼を……」
「いやいや、大丈夫じゃよ。獪岳にもいい刺激になったはずじゃ」
継子の勝手な行動に謝る日柱。
その姿すら、柱に相応しくない。
柱ならもっと堂々と……!
「なぁ……木刀でも、お前ごときなら殺せるからな?」
「……っ!」
俺の考えていたことがわかっているかのように、兄さんと呼ばれた男は俺の耳元でそう呟いた。
俺にだけ聞こえるように。
……隣でカスが「ひっ!」と震えていたから、地獄耳で聞いていたんだろうな。
その後、継子と戦うことになった。
もちろん、木刀で。
先程のやり取りで勝てないとわかっていたが、一矢報いようとやったが……。
一撃も与えることなく、ボロボロにやられた。
打ち所が悪かったら死ぬような攻撃ばかりだった。
おそらく本当に、頭などに当たったら死ぬような威力。
そのような攻撃を動いてる俺に、殺さないように致命傷にならない場所へ当てる技術。
まさしく完敗だった。
骨はおそらく何本か折れている。
「炭治郎さんをバカにした罰だね」
「お前、やりすぎだろ。俺にも楽しみを残しとけよ」
しかもまだ、無一郎という方と戦っただけ。
有一郎という奴との戦闘が残っている。
カスと戦っていたようだが、カスは逃げてばかりで戦いになっていなかった。
俺は地面に倒れて、戦う力はもう残っていない。
二戦目なんかやったら、本当に死ぬ……。
「無一郎くん……ちょっと、やりすぎじゃないかな?」
「た、炭治郎さん……もしかして、怒ってる?」
俺をボコボコにした無一郎の震える声が聞こえて、顔だけ上を向いて確かめると……。
日柱が無一郎の頭を、ゴンっ!と鳴るくらいの頭突きをしたところだった。
「いったぁぁぁぁぁぁ!!」
「お仕置き! 弱いものいじめをしちゃダメだ!」
弱いもの、いじめ……。
「炭治郎さん、正直に言いすぎだろ……」
「とんでもねぇ炭治郎だ」
「いたぁ……お前、今炭治郎さんのこと呼び捨てした?」
「痛がってたんじゃないの!? 顔が無表情で怖い! 音も怖いし!!」
確かに、あの継子と比べれば、俺は弱いだろう。
一撃も与えることも出来ずに、殺されかけるのだから。
「獪岳くん、ごめんね? うちの子がこんな酷いことをして……」
倒れている俺に日柱が近づいてきて、手を差し出してくる。
その手を取るのは気に食わなかったので、なとかして自分の力で立ち上がろうとした。
しかし、身体は言うことを聞かず、起き上がれない。
「桑島さん、救急箱はありますか?」
「家にあるぞ。家の周りを回って、縁側から入った部屋にある」
「借ります! 獪岳くんも連れていきますね!」
「うおっ!?」
倒れていた俺を持ち上げ、横抱きにする。
日柱よりもどう見ても重い俺を、軽々と。
すごいとは思ったが、柱なら出来て当然だろう。
今はそれよりも、この体勢が恥ずかしい……!
「男にお姫様抱っこ……とんでもねぇ炭治郎だ」
「お前、それ言いたいだけだろ」
「……いいなぁ、僕もされたい」
「無一郎、兄さんはお前の将来が心配になってきた」
カスと兄弟二人が何を言っているのかは、俺は聞こえなかった。
裏側に回り、日柱は俺を縁側に座らせ、救急箱を手に取り俺の手当てをしてくれた。
手先は器用なのか、とても上手く包帯を巻いていた。
不思議とあんだけボコボコにされたのに、痛みが薄れてきた気がする。
「大丈夫? 痛くない?」
「……はい、大丈夫です」
人当たりのいい笑顔を向けられるが、俺は気まずくて顔を逸らしてしまう。
「日柱様は……」
「炭治郎でいいよ。多分獪岳くんの方が年上だから、呼び捨てでいいし」
「……実際、何歳なんですか?」
「俺は13歳だよ」
「13……!?」
本当に、俺よりも年下だった。
しかも13歳なんて、本当に子供じゃないか。
カスよりも年下だ。
「その、炭治郎は……いつから鍛えてたんだ?」
「うーん、難しい質問だなぁ……呼吸の練習をし始めたのは、3歳とか4歳の頃かな? その時は父さんから『疲れない呼吸がある』って聞いて、それをやってただけなんだけど」
「3歳から……」
そんな年からやってたなんて……それは勝てないはずだ。
俺はまだ1年かそこらしかやっていない。
全集中の呼吸・常中も最近出来るようになったばかりだ。
「継子のあの双子の兄弟は、いつから教えてるんだ?」
「本当に最近、2ヶ月前からだよ。しかも2ヶ月前にあの二人は初めて刀を持って、あの強さだからね」
「……はっ? まじで?」
「うん、すごいよね、無一郎くんと有一郎くんは」
すごすぎるだろう。
2ヶ月であれだけの強さなんて、信じられない。
そう聞くと、日柱よりもあの二人の方がすごく感じる。
だが強いのは、日柱である炭治郎だ。
「だけどさっきの模擬戦を見たけど、獪岳くんも強かったよ。常中をまだ習ったばかりなんでしょ?」
「……まあ、そうだけど」
「それであれだけ強いなら、もっと強くなれるよ」
最初は嫌味かと思ったが、炭治郎の優しい笑みを見ていると、全くそのような雰囲気はない。
本気で、俺がもっと強くなれると思っている。
「……そういえば日柱って、日の呼吸を使うってことだよな?」
なんとなく気恥ずかしくなり、話題を変えることにした。
「ん? まあ、そうだね」
「日の呼吸って初めて聞いたが、自分で編み出したのか?」
「いや、俺の家で代々受け継がれていたヒノカミ神楽があるんだけど、どうやらそれが日の呼吸というらしくて」
「そんなことあるのか?」
「わからないけど、あったみたいだ」
よくわからないが、鬼殺隊の剣士の中で日の呼吸は炭治郎しか使えないようだ。
それだけ難しいのか……。
「見てみたい?」
「はっ? いや……」
「ふふっ、顔に書いてあったよ、見てみたいって」
確かにそんな強く、炭治郎にしか出来ない日の呼吸というものを見てみたい。
「じゃあ……俺の継子が迷惑かけたお詫びとして、全部の型を見せるよ」
そう言って炭治郎はふわりと浮かぶように、俺の隣から跳んで前に立つ。
俺は縁側で座り、炭治郎は目の前で刀を抜いた。
そして……とても美しい、舞を見た。
最初は本当にただの舞かと思ったが、ちゃんと日が出ているので全集中の呼吸の型だということがわかった。
それにしても、美しかった。
だが、それでも……俺は……。
「獪岳くん、どうした?」
「えっ、あ、いや……」
気づいたら、炭治郎の日の呼吸の全ての型が終わっていた。
雷の呼吸よりだいぶ多く、12も型があったようだ。
「すごい、カッコよかった。それに、めちゃくちゃ強いのもわかった」
「そう? ありがとう」
おそらく俺が見やすいように遅く動いてもらったはずだが、それでも動きに無駄がなかった。
完璧だった。
あれこそ、鬼殺隊の隊士が目指すべき頂点なのだろう。
「だけど……雷の呼吸の方が、速くてカッコいい」
柱である炭治郎に何を言っているのかと思われるかもしれないが。
俺は本心から、そう思う。
先生から初めて雷の呼吸・壱の型を見せてもらった時……すごい興奮した。
俺の人生において、あれ以上興奮することはないのではないかというぐらい。
あれほどカッコよく、速く、美しい技が使えるようになる。
俺は先生に弟子入りし、努力した。
しかし……壱の型だけ、使えなかった。
俺が雷の呼吸で一番美しいと感じ、一番やりたかった技が。
俺の人生において、あれ以上の絶望はこの先ないだろう。
弐の型から陸の型までは普通に使えた。
なのに、壱の型だけ出来ない。
そして……何も取り柄がないカスが、壱の型だけ出来る。
これほど、俺にとってイラつく存在はないだろう。
俺が恋い焦がれ、どれだけ努力しても出来ない壱の型を。
簡単にやってのけたあのカス。
他の型が出来ないなんて、知らない。
俺は雷の呼吸の基礎であり、速さの象徴でもある、壱の型が使いたいのだ。
「……獪岳くんは、桑島さんが使う雷の呼吸が好きなんだね」
「……ああ」
「桑島さんから聞いてるよ。雷の呼吸の壱の型が出来ないって」
「っ……!」
なぜ先生は、それを日柱である炭治郎に?
まさか……。
「桑島さんにお願いされたんだ。獪岳くんを、継子にしてくれないか、って」
「……」
先生……それは、どういうことだろうか。
もう俺には、雷の呼吸が合わないと言っているのだろうか。
これだけ練習しても壱の型が出来ない俺を、見限ってしまったのか。
「桑島さんは、申し訳なさそうにしていたよ。『儂の指導力が足りないせいで、獪岳は雷の呼吸を完璧に扱えていない』って」
「先生が悪いことじゃ……!」
確かに先生は教えるのがそう上手い人ではないかもしれない。
理論立てて教えるのは苦手で、「見て覚えろ」という人だ。
特にそこを俺は気にしたことはない。
見て覚えろと言われたからこそ、俺は壱の型に憧れたのだ。
だが先生は……俺の想像以上に、気にしてくれていたようだ。
「獪岳くん、君は俺の継子になりたい?」
「……いや、俺の先生は、一人だけだ」
継子になれば、柱になる道が大幅に縮まるかもしれない。
いや、おそらく確実にそうなるだろう。
だがそれでも……俺の先生は、先生だけだ。
「わかったよ。あとで桑島さんに話しておくね」
「……ありがとう、炭治郎」
柱という立場だし、本当なら敬語がいいと思うが。
親しみやすいからか、それとも俺が仲良くなりたいからか。
敬語を外して喋りたいと思った。
「ううん、俺は何もしてないよ」
そう言って笑みを浮かべる炭治郎は、綺麗であった。
「そうだ、獪岳くん。君って本当は左利きでしょ?」
「っ! なんでわかった?」
「筋肉を見ればわかるよ。もしかしたら壱の型が出来ない理由って、それかも」
「ど、どういうことだ!?」
「壱の型って構え的に、踏み込みと抜刀の速さが重要だよね」
「ああ、そうだな」
右手で刀を振り抜こうとするときは、柄に右手を、踏み込みの足は左足になる。
「獪岳くんは左利きだから、左手を柄に、右足を後ろにした方がいいよ。そっちの方が筋肉がついてるし」
筋肉がついていると断言出来る理由はよくわからないが、やってみる価値はある。
そして俺はその言葉をきっかけに……ついに、雷の呼吸を全て会得することが出来たのだった。
◇ ◇ ◇
「もうやだやだやだ!! 戦いたくないってばぁぁ!!
「ねえ、なんでこんなに弱いの?」
「ひどっ!! 無一郎ひどいね!?」
炭治郎さんと獪岳が裏へと行ってから、僕と兄さんは交互に雷の呼吸のもう一人の弟子、我妻善逸と戦っていた。
この善逸が、驚くほどに弱い。
本当に呼吸を習っているのだろうか。
常中は習ってないようだが、全集中が出来るぐらい身体を鍛えていれば、もう少し強いと思うんだけど。
いや、というか性格の問題か。
僕達と戦おうとしても、怖気づいて本気を出せていない。
こんなことでは鬼と戦う時に、何も出来ず死んでしまうのでは?
「ねえお爺さん、なんでこれを後継者にしてるの?」
「これって酷くない!? ねぇ、俺だって善逸っていう誰から貰ったのかわからない名前があるんだからね!?」
「うるさい」
「ごめんなさい!!」
桑島のお爺さんは僕の問いかけに、軽くニヤリと笑った。
「そうだな、じゃあ無一郎と有一郎よ、二人がかりでこいつをボコボコにしてくれんか?」
「「はっ?」」
「何言ってるの爺ちゃん!!!???」
「師匠と呼ばんか!」
僕一人、兄さん一人でもボコボコに出来るのに、二人がかりで?
むしろ殺さないようにするのに注意しないといけない。
だけどあのお爺さんの顔、何かあるみたいだ。
「……本当にやっていいんだな?」
「ああ、いいぞ」
「はぁ、どうなっても知らないよ」
「ちょっと待って!? 二人とも、なんで爺ちゃんの言葉本気にしてんの!?」
僕と兄さんが同時に木刀を抜き、善逸に攻撃しようとしたら……。
「いやあああアァァァァァァァ!! ガクッ……!」
「えっ……気絶した?」
「嘘でしょ?」
まさか怖くて気絶したの?
本当に、なんでこんな……っ!
空気が、変わった。
善逸が纏う空気が。
気絶したはずなのに、立ち上がった。
……深く、低く構えた。
呼吸音がした――そして。
「雷の呼吸――壱の型・霹靂一閃」
「「っ!?」」
咄嗟にその場から離れた。
瞬間、雷が落ちたかのような音が響き、善逸の姿が僕達の前から消えた。
地面には何か焦げたような一本線があり、それを追っていくと善逸の姿がある。
「……兄さん、見えた?」
「いや、見えなかった」
今のが善逸の本気。
雷の呼吸は、全ての呼吸において最速。
そして壱の型にして最強の技、霹靂一閃。
初めて見たが……見えなかった。
影は見えたが、刀を抜いたのは全く見えなかった。
僕と兄さんの頰には、傷が出来ていた。
油断はしていたが、まさか常中すら出来ていない善逸に傷をつけられるとは思わなかった。
「どうじゃ、儂の後継者は」
自慢げに笑うお爺さんの顔が、僕達は少し気に食わなかった。
その後、意識を戻した善逸を、二人がかりでボコボコにした。
「どうして!? なんで怒ってるの!?」と善逸は泣きながら逃げていた。
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