前話はこちらです。
ライトノベル作家のshiryuです。鬼滅の刃のSSを書きました。タイトル通り、炭治郎がもしも最初から最強だったらという話…
鬼殺隊の最強の称号を持つ、日柱の竈門炭治郎が……鬼だった。
まさかそんな訳がないと思って問いかけたが……肯定されるとは、思ってもみなかった。
「う、嘘でしょ……!?」
「……ううん、本当だよ」
炭治郎は悲しそうな顔で、寂しそうな音を立てながら、そう言い切った。
その言葉を言った時に、嘘の音は聞こえてこなかった。
つまり、本当に……鬼なんだ。
いつもの俺なら、「イヤァァァ!!」とでも、「ギャァァァ!!」とでも叫んでいたかもしれないが……。
それをするにはあまりにも、炭治郎が鬼には見えなかった。
たとえ炭治郎が、「自分は鬼だ」と言って、本当のことを言っているのだとしても、そうは見えない。
だってさっきの鬼とは、明らかに違う。
何もかも、容姿も、優しさも、音も。
何もかもが違って、炭治郎は、普通の人に見える。
……まあ、普通の人が鬼殺隊の柱になんて絶対になれないと思うけど!
「そ、その、なんで炭治郎は、鬼なんだ……? というか、本当に鬼なの?」
「ああ、そうだよ。容姿も擬態してて、ツノはないけど犬歯が鋭くて、目も赤いんだ」
そう言って炭治郎は1度目を瞑り、開けると目が黒から赤に変わっていた。
少し瞳孔も普通の人よりも縦長になっている。
炭治郎が「いー」という言いながら口を横に広げ、犬歯が鋭くなっているのを見せてくる。
なんか……犬みたいで可愛い、と場違いながら思ってしまった。
「本当に、鬼なんだ……だけど炭治郎、鬼っぽくないよね? あれ、というか鬼だったら、日の光浴びたら死ぬんじゃないの? 昼の時、普通に日の光浴びてたよね?」
「うーん、どこから話せばいいかな……」
困ったように少し笑いながら、炭治郎は1度周りを見渡した。
「とりあえず、山を下りようか。ここだとまた鬼が来るかもしれないから」
「わ、わかった……」
そして俺は炭治郎に案内されながら、山を下りた。
ここは日柱の炭治郎が見回りをしていた地域らしくて、俺が鬼に襲われているのを見つけて助けてくれたらしい。
やっぱり、炭治郎は……鬼かもしれないけど、鬼じゃない。
俺達は山を下りて、一軒のお店に入った。
ここは入り口に藤の花の家紋があって、昔に鬼に襲われていたところを鬼殺隊に助けてもらい、それからこの家紋を掲げて、無償で尽くしてくれているらしい。
「今日は夜も遅いし、ここに泊まろうか」
「……うん」
じいちゃんの家から結構遠くに来ていたようで、ここに二人で一泊することに。
炭治郎も今日の見回りはちょうど終わったようだ。
二人で部屋に案内されて、俺達は布団を敷いてその上に向かい合って座る。
「それで……なんで、炭治郎は鬼なんだ?」
「うん……長くなるけど、いい?」
「ああ、大丈夫」
それから、炭治郎の話を聞いた。
山奥で家族7人で慎ましく暮らしていたところに……鬼が来た。
しかもただの鬼じゃなく、鬼の始祖である鬼舞辻無惨が。
(うぅ……本当に、聞いちゃいけないことを聞いてるかも)
鬼の始祖である鬼舞辻無惨が家に来たら……確実に、全員死んでしまうだろう。
炭治郎は奇跡的に生き残って……いや、鬼になって生き残ったのか。
炭治郎からは、そこまで悲しい音がしない。
だけどそれは悲しくも、慣れてしまったからかもしれない。
「それで、そいつを撃退して」
「……えっ? 撃退?」
「えっ? うん、撃退したんだ。俺の家に入ってこさせないように、斧で」
「ちょっと待って。鬼の始祖を撃退? 斧で? そんなに弱かったの?」
「いや……言っちゃ悪いが、俺以外の柱だったら一人じゃ無理だと思う」
「なんで炭治郎出来てるの? その頃はまだ鬼殺隊に入ってないでしょ?」
「うん。だけど俺、小さい頃から全集中の呼吸を無意識にやっていたから。それで他の人よりも動けたんだ」
「動けた、っていう程度じゃないと思うけど!?」
まさか悲しい音をさせていなかったのは、家族を一人も失わずに守れていたからだったとは……。
しかも撃退の際に、頸を切ったようで、鬼舞辻無惨が頸の弱点を克服していることもわかったという。
「……とんでもねぇ炭治郎だ」
思わず呟いてしまった。
だけどその時に、鬼舞辻無惨の血が炭治郎に入ってしまったらしく、三日間眠り続けて鬼になった。
そして起きた時にはすでに人喰いの衝動はなく、太陽も克服していたようだ。
「とんでもねえ炭治郎だ!!」
思わず叫んでしまった。
それから鬼殺隊に見つかって、柱合会議になって……その会議の前に、上弦の弐を倒して……。
「えっ、さらっと言ったけど、上弦の弐って、鬼の中でも上から二番目に強いやつだよね?」
「そうだね。花柱の人が襲われてたから、倒しちゃった」
「……と、と、とんでもねぇ炭治郎だ」
思わずそう言ったが、本当にとんでもないな、炭治郎。
柱合会議では一悶着あったらしいけど、それ以降は花柱の代わりに日柱となって、鬼殺隊最強の柱を務めていると……。
「俺が鬼になった理由は、こんな感じだね」
そう言って苦笑する炭治郎。
全部聞いた感想は……。
「鬼になった理由というよりも、それ以外がすごくてなんかもう、すごい」
おそらく炭治郎以外だったら、鬼になったらダメなんだろう。
炭治郎は三日間寝ただけで人を喰わなくてもよくなって、太陽の光も克服してしまった。
前にじいちゃんに聞いたが、鬼舞辻無惨は1000年も生きていて、それで太陽を克服したいそうだ。
1000年も生きていて太陽を克服していないのに、炭治郎はわずか三日。
どういうこと? すごすぎでしょ。
だけど炭治郎が鬼になった理由はわかった。
身体の奥底にある怖い音は、やはり鬼の音だった。
「その……善逸は、俺が怖いか?」
「えっ?」
「さっき、俺が鬼だって気づいた時……逃げただろう?」
「あっ、いや、あれは……」
「わかってる。あれが普通の反応なんだ。最近、あまりそういう反応をされてなかったから、少し傷ついただけなんだ。善逸が悪いわけじゃないから」
「ねえ、わかって言ってる? 俺の罪悪感がすごいことになるの、わかって言ってるでしょ?」
炭治郎は「?」というように首を傾げた。
多分鬼になっても……炭治郎は炭治郎なんだろう。
「さっきは……俺が悪かったよ。逃げてごめん」
「ううん、さっきも言ったけど、それが普通の反応だから」
「だけど炭治郎……悲しかっただろう」
「っ! それは……」
「誤魔化さなくていいよ。俺は聞こえるからさ」
炭治郎は多分、あまり自分が鬼だっていう自覚がないんだ。
さっきの話を聞いてる限り、眠って起きたら鬼になっていたっていうことだし。
しかもその後も、人間の時と同じように暮らしている。
だから鬼だとわかられて、怖がられることに慣れてないんだ。
「もう怖くないから。炭治郎が鬼だったとしても、炭治郎は炭治郎だから」
「っ……ありがとう、善逸!」
そう言ってニッコリと笑う炭治郎に、俺はドキッとする。
な、なんだ今の、可愛い女の子を見たときのように、心臓が跳ねた……!
お、俺は女の子が好きなんだ!
炭治郎が好きなわけじゃ……! いや、人として、友達としては好きだけどさ!
「そういえば、善逸はなんであの家を出てここまで来てたんだ? こんな夜遅くに」
「へえぁ!? あ、ああ……それね……」
変な考え事をしていた最中に話しかけられたので驚いたが、その質問に頭が冷えていく。
炭治郎の話を聞くと、なんだか情けなくなってくる。
鬼舞辻無惨を撃退し、鬼になっても人喰い衝動に襲われず、太陽を克服し、そして上弦の弐を単独で撃破。
その後も鬼の身でありながら、鬼殺隊の最強の柱として頑張ってる。
しかも年齢は俺の一個下らしいし。
「俺は、その……あの家から逃げてきたんだ」
「逃げた? なんで?」
純粋な質問をしてくるが、俺の答えは決まっている。
「鍛錬が厳しいからに決まってるからだろぉ!! 死ぬから!! 絶対に俺死んじゃうから!!」
「善逸は生きてるだろ? それに、死ぬなんて簡単に言っちゃダメだ!」
「ど正論! やめて!! 俺傷ついちゃうから!!」
そう、逃げてきた。
鍛錬が厳しくて、辛くて、死んじゃうから。
だけど……今日は、いつもと違った。
「……善逸、どうしたんだ? 悲しい、寂しい匂いがするぞ」
「えっ……匂い?」
「ああ、俺は人間の頃から鼻が良くて、人の気持ちが匂いでわかるんだ」
「そう、なんだ」
俺の耳みたいなものか。
それで炭治郎は、俺が悲しんでいる、寂しがっていることがわかったのか。
「……俺、いつも逃げるんだけど、いつもじいちゃんに捕まってたんだ。だけど今日は、逃げ出せた。いつも夜に逃げようとしても、絶対に逃げ出せないのに。最初は嬉しかったけど……今考えると、じいちゃんに見限られたのかも、って思ったんだ」
「……なんで?」
「だって、今日、兄貴がずっと出来なかった壱の型を出来るようになった。今まで兄貴は壱の型だけが出来なくて、俺は壱の型だけが出来る。それでじいちゃんに、お互いが出来ないところを支え合って、後継者になれって言われてたんだ。だけど、兄貴が壱の型が出来るようになったから……弱い俺のことが、いらなくなったのかもって……」
ああ、言ってて、すごく泣きそうになってきた。
やっぱり俺は、人に愛されない星のもとに生まれたのかな。
「善逸、それは違うよ。桑島さんは、絶対に善逸を見捨てたりしない」
「……どうしてわかるんだよ」
「桑島さんは、善逸のことが大好きだから。善逸だって、桑島さんのこと好きだろ?」
「……うん」
「それに善逸は、弱くないよ」
「……弱いよ、俺なんて」
「弱くないぞ。善逸は壱の型を極められる身体を持ってるから」
「なんでそんなのわかるんだよ」
「見えるから、俺は。身体が透けて見えるんだ」
「身体が、透けて見える?」
なにそれ、どういうこと?
「善逸の足の筋肉は、すごい可能性を秘めている。多分、全一が成長すれば、俺でも速さは勝てないよ」
「は、柱の炭治郎に勝てるわけないだろ……」
「嘘じゃないよ。善逸は、鬼殺隊で最速になれる」
「……」
炭治郎からは、全く嘘の音が聞こえない。
それはつまり、鬼殺隊最強の炭治郎が、俺が最速になれると本気で思っているということだ。
「さっき善逸を助けた時の技、実は善逸の『霹靂一閃』から発想を得て作った技なんだ」
「えっ!? そうなの!?」
「ああ、ヒノカミ神楽のどの技よりも速くなった。だけど、善逸の技よりも全然遅かった」
「……」
「だから善逸は、とても強いんだぞ」
俺が、最速に……強く、なれる。
その言葉に、俺はとても勇気づけられた。
日柱の炭治郎に言われる言葉が、響いた。
「……わかった、炭治郎。俺、もう一回じいちゃんと話してみる」
「うん、それがいいと思う」
「そ、その……ありがとう」
「ううん、俺の方こそありがとう。俺を怖がらないでくれて」
俺と炭治郎は顔を見合わせて、笑った。
そうして俺達は……友達になったんだ。
「そういえば炭治郎、いつ俺の霹靂一閃を見たんだ? 今日、俺やった覚えないんだけど……」
「やってたじゃないか。一度倒れてから、急に立ち上がって……」
「えっ、なにそれ?」
「……えっ?」
◇ ◇ ◇
その後、俺と炭治郎が寝ようとした時……。
「ここかぁ!! 善逸ぅ!!」
藤の花の家紋が飾ってるこの家に、そんな声が響いてきた。
寝ようとして横になっていたが、ビクッとして起き上がる。
「ひぇ……! こ、この声、じいちゃんの声だ……!」
じいちゃんが俺を追って、ここまで来たの……!?
ど、どうやって、ここがバレたの!?
「あー……ごめん、善逸。さっきここに着く前に、桑島さんに鎹鴉を送ってたんだ」
「炭治郎ぉぉぉぉ!!」
炭治郎に裏切られていたとは……!!
「だけど、善逸……ちゃんと、桑島さんは追ってきたじゃないか」
「うっ……そ、そうだけど」
「多分、鎹鴉を送ってここに来るまでの時間を考えれば、届いた瞬間から走ってここまで来たんだと思うよ」
「うぅ……!」
そう言われると、喜んでしまうが……!
だけど、逃げたのがバレて追ってこられるのは恐ろしい……!
「善逸!!」
「ギャァァァ!!」
戸が開いて、じいちゃんが目の前に現れた。
「……竈門さん、この馬鹿を保護してもらって礼を言う」
「いえ、大丈夫です。俺は、席を外しますね」
「ちょ……!!」
炭治郎がそう言って、部屋を出て行ってしまう。
あいつ、裏切ってそのまま俺を置いて行きやがった……!
とんでもねぇ炭治郎だ……!!
「善逸」
「は、はいぃ!!??」
じいちゃんは俺に近づいて、拳を振り上げて殴る……!
と、思いきや……俺の両肩を強く掴んできた。
「へ……?」
「無事でよかったぞ、善逸……!」
「な、なんで……?」
「お前、鬼に襲われたって聞いたぞ! 怪我はないのか!?」
あっ……心配、してくれたんだ。
「う、うん、大丈夫……炭治郎に、助けてもらったから……」
俺は泣きそうになりながらそう言った。
正面から俺の顔を見ていたじいちゃんは、俺の言葉を聞くとほっと息をついた。
「馬鹿者……こんな夜中に抜け出すからじゃ」
「うん……ごめん……」
じいちゃんが本気で心配してくれたというのが伝わってきて、とても嬉しかった。
「……じいちゃん、俺、強くなれるかな?」
炭治郎に「強くなれる」って言われたけど、それでも俺は……じいちゃんの口から、聞きたい。
俺の前向きな言葉に驚いたのか、目を丸くしてから……じいちゃんは、ニッと笑って言った。
「もちろんじゃ。お前は儂の弟子で、誇りなのじゃから」
「っ……!」
その言葉に、俺は涙流してしまった。
「俺、頑張るよ……これからも、逃げるかもしれないけど……絶対に、諦めないからさ……」
「ああ、泣いてもいい、逃げてもいい。ただ諦めるな。お前は、雷の呼吸を極められる」
そう言って俺の頭を強く撫でるじいちゃん。
撫で方は荒く、頭はグラングラン揺れたが……なんだか、温かかった。
鬼滅の刃のアニメは、Amazonプライム・ビデオで全話無料で観れます!
いつまで見れるかわからないので、
まだ見てない方、見直したい方は登録して見ましょう!
Amazonプライム・ビデオで見れるオススメのアニメをまとめています。
ぜひそちらもご覧ください。
ライトノベル作家のshiryuです。本記事では、Amazonプライム・ビデオで無料で観れるアニメで、ラノベ作家がオススメ…
いろんなアニメや、ドラマや映画をお得に見たい人は、
下記の記事をご覧ください。
動画配信(VOD)サービスを、徹底比較しています。U-NEXT、Hulu、dTV、dアニメストア、Amazonプライム・…
有名で人気な動画配信サービスを5つ、まとめています。
お得に見れる情報も満載なので、ぜひご覧ください。