前話はこちらです。
ライトノベル作家のshiryuです。鬼滅の刃のSSを書きました。炭治郎がもし最初から最強だったら、という話です。鬼化して…
初めは、ちょっとした違和感だった。
顔を合わせた時は……泣きたくなるような優しい音が聞こえた。
とても落ち着いていて、側にいるだけで人の心を癒すような、そんな音。
実際、隣にいる継子の双子は、その人と絡むととても嬉しそうな音をさせ、同じような優しい音すら奏でる。
だけど……本当に、ちょっとだけ。
その優しい音の中に、嫌な音が、聞こえた。
奥の方に、ほんの少しだけ。
俺の耳でも注意深く聞かないと、聞こえないような、深いところに。
その人……竈門炭治郎は、何か変だ。
俺、我妻善逸は、そう感じた。
◇ ◇ ◇
「もうやだ!! もうしたくない!!」
日が暮れて、辺りも真っ暗になってきた時間。
そんな時間になっても、日柱の炭治郎と継子の時透兄弟との特訓は続いていた。
「降りてこい善逸! まだお前は日柱と戦っておらんだろう!」
「無理でしょ! なんでまだ隊士にもなってない俺が、鬼殺隊最強の人と戦わないといけないの!!」
俺は木に登り、大きな幹に「離れてたまるものか!」というように抱きつく。
「絶対に死ぬ! 手加減されても死ぬ自信があるからぁ!!」
「大丈夫だよ、善逸。手加減は苦手だけど、俺頑張るから」
「死ぬじゃん! 手加減されても死ぬって言ってるのに、手加減が下手だったらもう絶対に死ぬじゃん!」
下ではじいちゃんが怖い顔で、炭治郎が少し困った笑顔で俺の方を見ている。
「現柱に教わることなど、滅多にないんだぞ!」
「じいちゃんは元柱じゃん!」
「師範と呼べ!」
「俺は元柱のじいちゃんから教わりたいから!!」
「おふぅ……」
なんだかじいちゃんが変な声を出して、「ポッ」と顔を赤らめている。
「先生、あれくらいで嬉しがるなよ……」
「可愛いじいちゃんだね」
「無一郎、あれを可愛いと言うか?」
三人がそんな会話をしていたのが聞こえたが、今の俺はそれどころじゃない。
「さっきまで無一郎と有一郎、それに兄貴ともずっと戦ってたんだよ!? これで最後に日柱なんかと戦ったら、俺はもう死ぬよ!? 絶対に死ぬ!!」
どれだけ万全の状態で戦っても死ぬのに、もう欠けらしか残ってない体力で戦うなんて、それこそ自殺行為でしょ。
俺は死にたくない!
「鬼は待ってくれんぞ!」
「まあまあ、桑島さん。一応善逸もまだ隊士じゃないんだし、そこまで厳しくなくても」
「しかしじゃな、日柱のあんたが来て、一度も戦わないなんてな……」
「じゃあ明日、戦いましょう。桑島さん達がいいのであれば、泊まってもいいですか?」
「おお! それはいい案じゃ! 部屋に空きはある!」
……えっ、嘘でしょ? 明日も炭治郎達がいるの?
またこんなキツイ特訓が、明日も続くの?
「獪岳くんも、今日は泊まっていくけどよろしくね」
「ああ、よろしく。俺もその……炭治郎に教わりたかったから、好都合だ」
「さすが炭治郎さん。あの生意気そうな獪岳が、こんなにもデレデレに」
「で、デレデレしてねえ! ただ柱の炭治郎に教わって、早く強くなりたいだけだ!」
「わかりやすいツンデレだな」
「ツンデレじゃねえよ! くそ、もう一回戦うぞ! どっちでもいいからかかってこい!」
「僕よりも弱いのに、良い度胸だね。じゃあさっき善逸も味わったけど、同時にいこうかな。ねえ兄さん」
「はっ?」
「そうだな。弟弟子が味わったんだから、獪岳もやるよね?」
「くっ……やりゃあいいんだろ!!」
そんなやり取りをした後、兄貴がボコボコになっていくのを……俺は木の上で無心で眺めていた。
そして、夜。
夕飯も食べて、就寝する頃。
俺と兄貴は同じ部屋で横になっていた。
いつもは違う部屋なのだが、今日は時透兄弟がいるので、俺と兄貴で同じ部屋を使っている。
「……兄貴」
「なんだ、カス。早く寝ろ」
「炭治郎と、何かあった?」
「っ!……何もねえよ」
今のは心臓の音を聞かなくても、嘘だとわかった。
あまり表に出ない人だが、今のはわかりやすい。
「……そっか」
「くだらねえこと聞いてねえで寝ろ。明日も地獄だぞ、ただでさえお前は死にかけてたんだ」
「……わ、わかった」
今の会話もそうだ。
前までの兄貴だったら、「うるせえ」だけで終わりだったと思う。
普通に会話が出来て、そして回りくどいけど少し俺の心配をしてくれている。
それがちょっと嬉しかった。
なんだかいつも聞こえる不満の音が小さくなり、心の中にある幸せを入れる箱が……少しだけ、直ったかのようだ。
炭治郎と救急箱を取りに行ってから、音が全然変わった。
確実にその時に、何かあった……炭治郎と会話をして、何かが起こったとしか考えられない。
あんな少しの時間、炭治郎と話しただけで獪岳は変わった。
それだけ炭治郎がすごいということなのだろう。
……だけど!!
明日の特訓は、絶対にやだ!!
数十分後。
兄貴は爆睡した。
やはり特訓で疲れていたのか、すぐにとても深い眠りについたことが音でわかる。
今が、好機……!!
俺はゆっくりと布団から抜け出し、家を出ていく……。
逃げないと……!
明日の特訓なんて受けたら、俺は絶対に死ぬから……!
家の中の音を聞くと、いつもの俺の寝室に時透兄弟が寝ている。
そしてじいちゃんもすでに寝ているようだ。
こ、これは、絶対に逃げられる……!
じいちゃんが寝ていることなんて、そうそうない!
俺は家から抜け出し、落とし穴に気をつけながら家から離れていく。
は、ははは!!
やった、抜け出せた!!
一か八かだったけど、まさか成功するなんて!!
やったぁぁぁぁぁぁ!!!
その時、俺は気づかなかった。
炭治郎が、家の中にいなかったことに。
あの家を抜け出せたのは、初めてだ。
最初は嬉しすぎて、発狂寸前になりながら喜んでいたけど……。
「……俺、あそこ以外、行くところない」
冷静になると、そうだ。
あそこの家以外に、行くあてなんて全くない。
女に騙されて借金まみれになった俺を助けてくれたじいちゃん。
そのじいちゃんの場所以外に、行くところなんてないんだ。
というか、なんで今日は逃げ出せたんだろう。
今まではずっと無理だったのに。
「はっ! まさか、今から来るのか……!?」
後ろを向いてじいちゃんが来るかドキドキしてたけど……やっぱり来ない。
もしかして……考えたくないけど。
――見限られた……?
今まで一度も抜け出せず、じいちゃんは俺を捕らえていた。
それが今日、何の前触れもなく抜け出せてしまった。
いや、前触れは……あった。
兄貴、獪岳が、雷の呼吸・壱の型を使えるようになったことだ。
壱の型を使えなかった兄貴と、壱の型だけしか使えない俺。
じいちゃんは、二人で後継者になれと言っていた。
だが兄貴が壱の型を覚えてしまったら……俺は、いらない。
後継者は、一人でいい。
「……あっ」
気づかぬ間に、涙が溢れていた。
じいちゃんなら……見限らないでいてくれると、信じていた。
だけど……兄貴が壱の型が出来るようになって、すぐに見限られた。
俺は、いらないんだ。
「うぅ……」
俺は森のような場所で、一人蹲って泣いた。
また、一人になった――。
「おいおい。ガキが一人でこんなところにいるもんじゃねえぞ」
「えっ……」
いつの間にか、誰かが近くにいた。
「一人でいたら――俺みたいな、怖い鬼に食われちまうからなぁ」
「ひっ……!!」
顔を上げてそいつを見ると……いや、見なくてもわかった。
音が、人間と全然違う。
――鬼だ。
初めて聞いた、鬼の音。
気持ち悪い。
冷たくて、おどろおどろしくて……気味が悪い。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
俺は全力で逃げた。
全集中の呼吸を最大限に使い、最初から全力で。
「なっ! 速っ……!」
後ろで俺の足の速さに驚いた鬼の声が聞こえた。
今は武器なんて持ってない。
日輪刀はもちろん、木刀すら持ってないんだ。
鬼と戦うなんて、絶対に無理!
というか武器があっても無理だけどね!!
全力で走って逃げるが……鬼も俺を追って来る。
「俺から逃げられると思うなよ!! 俺は他の鬼より、足が速いんだ!!」
「知らないよ! あんた以外の鬼なんて会ったことないし!!」
俺も足には自信があるんだけど、鬼は俺に付かず離れずの距離でずっとついて来る。
霹靂一閃をやればもっと俺は速いんだけど、あれは一瞬の爆発力を重視する技。
逃げるときにやっても、一瞬だけ距離が離れるだけですぐに追いつかれてしまう。
というかこんなときに霹靂一閃が出来るほど、俺は強くない!!
「あっ!?」
そんなことを考えながら走っていると、地面が少し隆起しているのに気づかず、俺はこけてしまった。
派手にこけたので、とても痛い。
すぐに立ち上がって逃げないといけないが……すでに時は遅い。
「死ねっ!!」
「ギャァァァァァ!!」
振り向くともう目の前に鬼がいて、その鋭い爪を俺に振り下ろしている最中だった。
ああ、死んだ。
こんなところで、人知らず死ぬんだ。
しかもこんな醜い鬼に食われて、死体も残らない。
最悪だ。
だけど……もう、行く場所もなかったし。
じいちゃんにも見限られてたし、いいか。
生きてても……いいことなんて、なかった。
そう思って俺は強く目をつぶって、逃れられない痛みに耐えようとしたが……。
「ヒノカミ神楽――円舞一閃」
声が、聞こえた。
この声は……炭治郎だ。
すぐに来るはずだった痛みもこないので、ゆっくり目を開ける。
そこにはすでに首を切られて灰となっていく鬼の姿と……日輪刀を納める、炭治郎の姿があった。
「大丈夫か、善逸?」
炭治郎は俺を心配する目で見てくれる。
目や態度だけじゃなく、音もそうだ。
態度だけ優しくて、心は冷たいという人を、俺は何人も見たことがある。
炭治郎は、そんな人間ではなかった。
「うわぁぁぁん!! たんじろうー!! 怖かったよぉぉぉ!!」
「おっと……」
俺は泣きながら炭治郎に抱きついた。
足も地面から離して、炭治郎の身体を抱きしめる。
全体重をかけているにもかかわらず、炭治郎は大きな木の幹のようにブレず、安定していた。
俺が木に抱きつくのは、安心するからだ。
大きな幹だとさらに安心する。
炭治郎は大きな幹ほど太くはないが……その分、温かい。
「よしよし……」
そして頭も撫でてくれる。
最高かよ。
俺はそのまましばらく、炭治郎に抱きついたまま……になると思ったが。
ふと、気づいた。
炭治郎の音の、違和感に。
炭治郎の奥にある、冷たい音が……鬼に、酷似していた。
そのことに気づいた瞬間、俺は血の気が引いた。
バッと離れて、炭治郎と距離を取る。
「善逸?」
「はぁ、はぁ……!」
俺を心配そうに見てくる目。
音も、しっかり心配そうにしているのがわかる。
だけど……心の奥の冷たい音が、その態度もその音も、本当かどうかを疑わせる。
「炭治郎は……鬼、なの?」
それを聞いた瞬間、炭治郎は驚いた顔をした。
そして――
「そうだよ」
悲しそうな笑顔をして、肯定した。
「先生」
「ん? なんじゃ、獪岳」
炭治郎と獪岳が救急箱を取りに行って帰ってきて、獪岳が桑島に話しかけた。
「俺、壱の型が、出来るようになりました」
「っ!? ほ、本当か!?」
「はい」
話すよりも、見せた方が早い。
獪岳は、構えた。
「っ! 獪岳、お前……」
すぐに桑島は気づく。
獪岳の構えが、いつもと逆なことに。
「雷の呼吸・壱の型――霹靂一閃」
霹靂一閃で大事なのは、踏み込み足。
それが利き足になったことにより、爆発的な踏み込みが生まれる。
桑島から見れば、まだ速度は全然足りない。
だが、形にはなっている。
「どうでしたか? 先生」
「……出来ていたぞ。だがまだまだじゃ! これからも精進せい!」
「っ! はい!」
桑島は厳しい口調でそう言うが、口角は上がっていた。
それを見て獪岳も嬉しそうに笑って返事をする。
「獪岳、じゃあ僕達と戦って練習しようよ」
「はぁ? いきなり実戦では出来ねえだろ」
「実戦じゃない、練習稽古でしょ。実戦でやるために稽古するんだ」
「僕達は君の弟弟子とやったんだから、兄弟子の君ももちろん出来るよね?」
「くっ……! やってやるよ!」
なんとか無一郎と有一郎と戦ってる最中に、壱の型をやろうとするが……もちろん、上手くいかない。
しかし、獪岳は何回もやられるが、楽しそうに練習していく。
それを桑島は、嬉しそうに見守っていた。
その光景を……逃げた木の上で、悲しそうに見つめる善逸の姿があった。
次話はこちらです。
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