前話はこちらです。
「久しぶりだね、二人とも」
太陽が輝く日の昼間。
夏なのに少し風が涼しい日である。
無一郎、そして五体満足で生き残った有一郎。
そんな二人は今、日柱の屋敷に来ていた。
◇ ◇ ◇
なんとか一命を取り留めた兄さんだが、鬼に襲われてから1週間ほど目が覚めなかった。
蝶屋敷でその間、僕はずっと側に居続けた。
何も飲まず食わずで看病し続けようとしていたが、それは炭治郎さんに止められてすぐにやめた。
だがそれでも心配で、兄さんが眠るベッドの横にずっと座っていた。
そして1週間が経ち、ようやく目が覚めた時に僕は泣いた。
これ以上なく泣き、起きてすぐの有一郎に抱きついた。
兄さんは寝起きで驚きながらも、泣き続ける僕の頭を撫でてくれた。
そしてそれからまた2週間ほど、寝続けた兄さんの身体の機能を回復させる運動があり……(兄さんが話すには、死ぬかと思ったらしい)。
ようやく二人は、自分達を救ってくれた炭治郎さんと会うことになったのだ。
炭治郎さんはこの一ヶ月、任務で忙しくてあまり蝶屋敷に行けていなかった。
なのでずっと蝶屋敷にいた僕と兄さんは、ほぼ一ヶ月ぶりに炭治郎と会う。
炭治郎さんが住んでいるという、通称「日屋敷」。
そこに二人で向かう。
幸いにも、蝶屋敷から歩いて十数分ほどで着く。
着いて中に入り、炭治郎に少し似ている女の子に案内される。
名前は禰豆子、というらしい。
話を聞くと、炭治郎の妹のようだ。
「私、貴方達と同い年よ。よろしくね」
「えっ、そうなんだ。じゃあ炭治郎さんって何歳?」
「13歳よ」
「嘘!?」
まさか炭治郎さんが、自分達の一個上だとは思わなかった。
いや、容姿はそのくらいだと思うんだけど、雰囲気とか強さが全然違う。
そして僕達は禰豆子に案内されて……炭治郎さんがいる部屋へと着いた。
「久しぶりだね、二人とも」
炭治郎さんは太陽の光を浴びながら、綺麗な笑顔で開口一番にそう言った。
僕と兄さんは隣り合って星座で座り、正面に炭治郎さんが座る。
「足崩していいよ。畏まられるほど、俺は偉くないから」
そう言って笑う炭治郎さん。
だけど僕達は緊張で、さすがにすぐには足を崩せなかった。
炭治郎さんは偉くないなんて言うけど、とんでもない。
僕は蝶屋敷に1ヶ月、兄さんだって目覚めてから2週間くらい経ってる。
その間に炭治郎さんの噂なんて、度々聞いている。
鬼殺隊という組織には階級があり、その中で一番上なのが「柱」。
厳しい訓練を受けて、選抜試験を潜り抜けてようやく隊士になる。
そこから何年も鬼を斬り続け、登りつめた人がようやく柱になるという。
普通の隊士でも常人以上の動きが出来るというのに、柱はどんなに強いのか。
僕と兄さんじゃ想像も出来ない。
加えて炭治郎さんは、柱の中でも特別。
いわく、鬼殺隊に入ってないにも関わらず、上弦というとても強い鬼を倒した。
いわく、お館様の推薦で全く訓練を受けずに鬼殺隊に入り、すぐに柱になった。
いわく、柱になってから数ヶ月、任務は人並み以上に行っているのに、かすり傷すら受けていない。
そんな噂が、蝶屋敷で流れてくる。
全てが本当かどうか怪しい、ということをある隊士が言っていた。
特に上弦を倒したというのと、一切訓練を受けずに柱になったというのは嘘だろう、とも。
しかし最後の、任務を人並み以上に行っていて、それでかすり傷を受けないというのは、いろんな隊士の証言もあって、ほぼ真実だという。
炭治郎さんと一緒に任務を受けた隊士全員が、その強さ、技に驚く。
とても優しい日の強さ。
炎の呼吸ではなく、日の呼吸。
鬼と遭遇すると、あっという間に炭治郎さんは倒してしまうという。
炭治郎さんと任務に一緒に行く隊士も、ほとんど傷を負わないらしい。
多少の怪我を負う人はいるらしいけど、重体は全く出ず、死者は一人もいない。
だから炭治郎さんと任務に行く人は、「お天道様の加護を貰う」と言われている。
「……まあ二人がそれでいいならいいよ」
足を崩さない僕達を見て、炭治郎さんは困ったように笑った。
「それで、有一郎くん、身体は大丈夫? 後遺症はないって聞いたけど」
「あっ、はい、大丈夫……です」
「ふふっ、慣れないなら敬語じゃなくていいよ。初めて会った時みたいに」
「っ! あの、その節は、本当にすいませんでした……」
兄さんは正座をしたまま頭を下げる。
僕も一緒に頭を下げた。
兄さんは炭治郎さんと初めて会った時、すごく横暴な態度を取ってしまった。
もうそれは、本当に横暴な態度を。
蝶屋敷の人達や炭治郎さんを慕っている人がそれを知れば、兄さんはとても白い目で見られ、ボコボコにされるかもしれない。
「ああ、ごめんね。謝らせたいわけじゃないんだ。ただ、敬語とかも無しで大丈夫だよって言いたいだけだよ」
「……その、いいんですか?」
「うん、もちろん。無一郎くんもね」
「あ、はい……じゃなくて、うん」
今度は僕に笑顔を向けて、そう言ってくれた炭治郎さん。
それに僕は少しだけ違和感を抱く。
「……あの、炭治郎さんは、僕達のことを見分けられるんですか?」
「ん? どういうこと?」
「僕達は双子だからか、蝶屋敷ではすごい間違えられたんです」
僕達はしっかり鏡を見たことがないから、蝶屋敷でお互いがここまで似ていることを初めて知った。
それに兄さんが目覚めてからは、蝶屋敷で歩いていると、兄さんと間違えられることがよくあった。
前に胡蝶しのぶさんに「ダメですよ有一郎くん、元気になったからといってベッドから抜け出しちゃ」と本気で言われた。
僕が無一郎だって言うと、すぐに謝られたが。
「ああ、そうなんだ。確かに君達はよく似てるね。だけど俺は鼻が効くんだ」
「鼻?」
「うん、匂いを人並み以上に嗅ぎ分けられる。だから二人のことを間違えることはないと思うよ」
「そうなんだ……」
匂いで嗅ぎ分けるって……犬みたいだ。
僕は不謹慎ながら、そう思ってしまった。
「あと目も、人とは違う世界が見えてるんだ」
「目も?」
「僕にとって、注意深く見れば人体が透けて見えるのが当たり前だったんだけど、母さんや妹に聞いてもそんなことないって言うんだ。だか
らその時は少し驚いたな」
「えっ、人体が透けて見えるの?」
「うん。結構便利だよ。その人すら気づいてない病気とかもわかるしね。あっ、君達はとても健康体だよ」
人体が透けて見えるというのは、どういうことだろうか。
本当に人体が透けて見えているのかな?
だけど炭治郎さんだし、嘘はつかないと思うけど……。
「それで、今日は話があるって聞いたんだけど……何かな?」
っ! そうだった。
僕は隣にいる兄さんに目配せをすると、同じくこちらを向いた兄さんと目が合う。
そして目線で意思疎通をし、一緒になって言う。
「「炭治郎さん、俺(僕)達を継子にしてください」」
先程と同じように、僕達は正座をしたまま頭を下げる。
今日はこれを言いに、頼みに来たのだ。
2週間、目覚めなかった兄さんを見て、僕は腹の底でずっとグツグツと怒りが溜まっていた。
もちろん、鬼への怒りだ。
炭治郎さんが来てくれたから兄さんは五体満足で生きていたが、来ていなかったら兄さんに、それに僕も死んでいたかもしれない。
超屋敷にいた間も、ずっと鬼に傷つけられてた人達が運び込まれてきた。
僕も空いた時は手伝っていたけど……それは酷い状態だった。
確実に死を迎える、もう助からないという人達が運び込まれることもある。
それを見て僕は、鬼の存在に怒りを抱いた。
こんなにも人々を傷つけ、苦しめる鬼に対して。
だから僕は、強くなりたい。
もう鬼に傷つけられる人を、見たくないから。
つい数日前に兄さんにそれを言ったら、兄さんも同意してくれた。
そして同じく、いっしょに鬼殺隊に入ってくれると。
動機は僕とは違って、「自分を守れる力、自分が手に届く範囲を守れるだけの力を手に入れたい」というものだった。
今回のように無抵抗にやられるぐらいだったら、強くなって守るというものだ。
兄さんらしい、冷たくも優しいものだった。
それで誰に指導してもらうかという話になり、やはり1番に名前が挙がったのは炭治郎さんだ。
とても強く、カッコよく、優しい炭治郎さん。
そんな人に教わって、そしていつか……助けられた恩返しがしたい。
そう思って、僕達は今日炭治郎さんの家にお邪魔したのだ。
「えっと……」
僕達の突然の申し出に戸惑っているようだ。
「その、ごめんね」
炭治郎さんの否定の言葉に、僕は悲しくなってすぐに頭を上げてしまった。
「どうしてですか!? 僕達、なんでもします! 強くなりたいんです!」
「その、生意気な態度を取ったのは謝ります。俺だけが駄目なら、せめて無一郎だけでも」
「兄さん! 僕達二人でやろうって言ったのに、そんなこと言うなよ!」
「あの、ちょっとごめん、違うんだ、拒否したわけじゃなくて」
炭治郎さんは申し訳なさそうに笑って。
「えっと、継子ってなに?」
「「……えっ?」」
その後、めちゃくちゃ説明した。
「ああ、そういうのがあるんだ。そういえば蝶屋敷にいるしのぶさんも、カナエさんの継子って前に聞いたことがあるかも」
理解してくれた炭治郎さんは、顎に手を当てて言った。
確かにしのぶさんは、カナエさんの継子だ。
半年近く鬼殺隊にいて、炭治郎さんはそれを今知ったのか……。
「二人は、僕の継子になりたいの?」
「「はい」」
「どうして? 僕以外にも柱はいるよ。それこそ花柱のカナエさんとか……」
「僕達は、炭治郎さんがいいんです!」
「俺達を守ってくれた貴方から、学びたいんです」
僕達は炭治郎さんの話を遮って、強くそう訴えかける。
炭治郎さんはそれに驚くと、一瞬目を伏せて考えるようにして……。
そして、笑みを浮かべて言う。
「それじゃあ、喜んで受け入れるよ。俺もまだまだ未熟者だけど、一緒に頑張ろう」
「っ! はい! ありがとうございます!」
「……炭治郎さんは、未熟者なんかじゃありませんよ」
こうして僕達は、炭治郎さんの継子となった。
「だけど僕達、強くなれるかな……」
「何弱気なこと言ってんだ無一郎。強くなるしかないんだよ」
「大丈夫だよ二人とも。君達の身体を見る限り、普通の隊士よりは強くなること間違いないから」
「えっ、本当!?」
「うん、本当だよ」
「そんなのもわかるのか?」
「透き通って見えると、なんとなくわかるんだよ。筋肉の質とか、動きとかがね」
◇ ◇ ◇
「ねえ、兄さん」
「……なんだ」
俺が起きてから、いや、俺が寝ている間、1週間もずっとこいつは隣にいたらしい。
ベッドで上体を起こしている俺は、隣で座ってベッドに寝そべっている無一郎の話を聞く。
「僕、鬼殺隊に入るよ」
「……そうか」
「止めないんだね、前みたいに」
「言うと思ってたし、もう止めても無駄だろ」
「……うん、そうだね」
蝶屋敷という鬼にやられた人が運び込まれてくる場所にいて、無一郎がそう思わないわけがない。
俺も数日間、起きてからこの屋敷の状況を見たが、それは酷いものだ。
「兄さんみたいに鬼で傷つく人を見たくない。だから僕は鬼殺隊に入って、強くなりたいんだ」
「……そうか。だったら、俺も入る」
「えっ、兄さんも?」
俺が入ることが意外だったのか、無一郎は目をまん丸にして驚いた。
「お前が入るのに、兄の俺が入らないわけないだろ。ただ俺は、自分で自分を守りたいだけ。そのついでに、周りの人間を守るだけだ」
「……ふふっ、兄さんらしいや」
「……ふん」
そう言って俺は一眠りするために布団を被って寝転がったが……。
「ねぇ、兄さん」
「なんだ」
「もうあんなこと、言わないでよ」
「何の話だ」
「バチが当たるのは、俺だけでいいとか……僕だけでも、助かってとか」
「っ!? なっ……!?」
その言葉に俺は顔を赤くしながらも飛び起きる。
まさか、鬼に襲われた時に思った言葉だが、口に出てて……無一郎に聞かれてるとは……!
俺が無一郎の方を見ると、無一郎は口を尖らせて怒っている様子だった。
「兄さんがいないと、僕はダメなんだよ。だからあんなこと、もう言わないでよ」
「……」
「無一郎の『無』が『無限』って意味だったなら、それは兄さんと一緒にいないと出せないんだからね」
「っ!」
そんなことも、俺は言っていたのか……。
というかこいつは……よく恥ずかしげもなくそんなことを言えるな。
俺の方が恥ずかしくなってくるだろう……。
「わかってる? 兄さん」
「……わかったよ」
「じゃあ兄さん、約束」
「……ああ」
俺達は何年振りになるかわからない、指切りをした。
次話はこちらです。
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